プロイセンの王妃達
フランスとプロイセンの間に「バーゼルの講和」が結ばれた。これにより、
フランスのライン左岸一帯の領有を認める事となった。だが、これはフランスとプロイセンの
この年の７月２９日に、ルイーゼは
息子カールを出産した。
アレクサンドルは、早くからプロイセンと反ナポレオン同盟を結ぶ事を考えていた。
しかし、それまでのロシアとプロイセンは、
彼の父の時代から接近し始めるようになったとはいうものの、ポーランド分割を巡っての事
など、色々と複雑な関係であり、
必ずしも良好な関係とはいえなかった。
このため。しばらくアレクサンドルは、
本格的なロシアのプロイセンに対する外交方針転換をする、よい折を待つ事にした。
そして、その内に十六歳の自分の妹エレーナ・パヴロヴナ皇女とプロイセン王妃ルイーゼの
親戚である、メクレンブルク＝シュヴェリーン公爵フリードリヒ・ルートヴィヒを結婚させる計画を思いつく。
この年の１０月、ロシアとメクレンブルクの
両家の間で、彼らの結婚式が行なわれた。
エレーナはフリードリヒ・ヴィルヘルムが
「美しいエレーナ」と呼んだ程の、美しい皇女だった。若いカップルは、幸福に輝いていた。
こうして、徐々にロシアとプロイセンの同盟の
下地は、作られていった。
この年の秋、ルイーゼは家族たちといつものように、パレツ宮殿で過ごしていた。
九月九日のルイーゼの日記である。
「愛するフリッツ！愛するヴィルヘルム！愛するシャルロッテ！おはよう、愛する子供達。パパがあなた達全員にキスして下さるでしょう。
ニンジン、エンドウ豆、チャービル、パセリ、
白インゲン、キャベツとレタスを庭園で収穫する、たくさんの楽しみがあります。
今日はニンジンの料理です、採りに行きましょう。さあどんな味がするかしら！日曜日には、収穫祭がやってきます。ここ、パレツにもやって来るでしょう。
私はあなた達全員を心から、永遠に愛しています。
愛情のこもった母ルイーゼ」
国王夫妻は、１７９９年の５月から
７月、１８００年の８月、１８０３年の５月から６月、そして８月、
１８０５年の５月から６月と、
ベルリンから東部、西部の方へと、
大規模な旅行をしている。
そのプロイセン国王夫妻の旅行のルートは、
まずマクデブルクの駅から、ブラウンシュヴァイク、ミンデン、ハイデルベルクハウゼン、カッセル、バイエルン、アンスバハ、ハーナウ、ダルムシュタット、フランクフルト、ヴァイマル、ハレ、デッサウとヴォルリッツである。
ハイデルベルクハウゼンを訪れた際に、
ルイーゼは姉のシャルロッテと会っている。
そしてアンスバハでは、妹のフリーデリーケと
会った。
今回の旅行は、１７９８年の前回の旅行の時のように、戴冠式後の公式なものというより、
夫妻が楽しむためのものだった。
１８０２年の夏、フリードリヒ・ヴィルヘルム三世とルイーゼは、ロシアとの同盟を求め、
東プロイセンから北東の方にあるメーメルに
向かった。
１８０２年の６月１０日にプロイセン国王夫妻は、サンクトペテルブルクからやって来たロシア皇帝アレクサンドル一世とメーメルで
会談した。彼らはこの若きロシア皇帝に一目会うなり、熱烈に魅了された。
国王夫妻とアレクサンドル一世の友情と
信頼関係は、これ以降末永く続く事になる。
ルイーゼ付きの女官長のフォスは、
日記にこう書いている。
「ロシア皇帝は美男である。黄金の髪、
信じられないような素晴らしい容姿である。
そして皇帝は王妃に熱烈に魅了された
ご様子だ。また、王妃の方もこの青年皇帝に
心酔し、またとても彼に信頼感を感じたよう
だった。」
まさしくルイーゼは、この物腰柔らかで
優雅で魅力的な皇帝の振る舞いに魅了されていた。
日課となっていた日記にも、
ルイーゼの熱狂的な記述が見られる。
「ロシア皇帝は実に稀な人物でおられます、
とても親切なお人柄であり、そして彼は真の
数多い長所を兼ね備えていらっしゃいます。
気高く公平な信条を持っていて、
彼の素晴らしい本質はこの世の全ての国王にも
匹敵する程です、そして何と均整の取れた姿、
そして均整の取れた美しい口元。素晴らしく
見事な身体つきと堂々とした風采をなさっておいでです。その姿はまるで若きヘラクレスのようです。しかも今日は、軽く頭を下げて私の手に接吻なさってくださった。」
この他にも「私の唯１人の人アレクサンドル」や「愛するいとこ」など熱烈な記述が見える。
しかし、アレクサンドル一世は、
数々の指摘がある通り、大いなる矛盾を抱えた皇帝だった。
絶えず異なる２つの世界の狭間で揺れ動き、
自由主義を掲げながらも規律と伝統を好み、
専制君主としての権力を強め、
優柔不断かと思えば頑固にもなった。
だが、少なくとも国王夫妻にとっては、
彼は親切で魅力的な人物と映っていた。
アレクサンドルは１６歳の時に、
バーデン公女ルイーゼ・マリー・アウグステ(ロシア名のエリザヴェータ＝アレクセーエヴナと改名。)と結婚していた。
彼女はロシア宮廷でも評判の美人であり、
当時からお似合いの２人と誉めそやされていたが、特にさしたる理由もないまま、
いつしかこの夫婦の間には溝ができていった。
１７９９年に娘マリヤ・アレクサンドラが
生まれたが、夭折してしまった。
その内にアレクサンドルはポーランド貴族の権門チェトヴェルチンスキ公アントニ・スタニスワフの娘であり、ロシアの権門ナルィシキナ侯爵兼狩猟頭のドミトリーの妻である、
マリヤ・アントニア・ナルィシキナ侯爵夫人を
愛人に持つようになった。
その夜、ベルリン宮廷でロシア皇帝アレクサンドルのために小規模な舞踏会が催された。
アレクサンドルとルイーゼは、
ワルツを踊った。
しかし、それから間もなく、
王妃には明らかに喘息の症状が現われ始めた。
フォスは「テーブルに着いている王妃に、
喘息の発作が現われ始めていた。」
と記している。
ルイーゼには、気持ちが昂ぶると、
体調を崩す傾向があった。
メーメルでの会談以降、
アレクサンドルは数多くのルイーゼと交わした手紙の中で、ルイーゼの事を称賛している。
ルイーゼとアレクサンドルは、
こうして最後の一線を越えぬまま、
プラトニックな恋愛遊戯を楽しんでいたのかもしれない。
ルイーゼにはロマンティストな所があり、
またアレクサンドルも極度のロマンティストだった。
ロシアの外務大臣ジャージ伯爵アダム・チャルトルィスキは、アレクサンドルと女性達との関わりについてこう言っている。
「皇帝が夢中になる女性が、
実際にその貞操まで脅かされる事は、
極めて稀だった。」
プロイセンは、バイエルン、ワルテンベルク、バーデン、ヘッセンと引き換えに
司教領だったヒルデヘイム、パーダーボルン、クヴェトリンバーグ、エッセンを手に入れた。